特別対談|のうび在宅クリニック 岡田玲子代表理事 ×土師初美院長×C-POERグループ代表 肥田和明

<のうび在宅クリニック 岡田玲子代表理事、土師初美院長との対談特集>

自宅での生活を続けながら、必要な医療や支援を受ける在宅医療。
多治見市周辺で訪問診療を行うのうび在宅クリニックでは、
医療だけでなく福祉や地域のつながりとともに、一人ひとりの暮らしを支えています。
今回の対談では、地域で暮らし続けるために必要な支援について伺いました。



ーまずは自己紹介をお願いします

土師:のうび在宅クリニックで院長をしております、土師初美と申します。もともとは麻酔科を専門に診療を行なっていました。
岡田から声をかけてもらったのをきっかけに在宅医療に関わるようになり、今も日々学びながら向き合っています。
岡田:のうび在宅クリニックで代表理事をしております、岡田玲子です。これまで20年以上、医療関係の仕事に携わってきました。
15年ほど前に介護部門の立ち上げに関わったことをきっかけに在宅医療に触れ、その後、訪問診療クリニックの立ち上げにも関わりました。
職員や先生方が働きやすい環境が、患者さんへのより良い医療につながると感じ、ご縁があり多治見市でのうび在宅クリニックを開業しました。
肥田:C-POWERグループの代表をしています、肥田和明です。2002年にデザインの個人事務所としてスタートし、2012年から障害福祉事業に取り組んでいます。現在は、ライフステージに合わせた障害福祉サービスを11事業所展開しています。
グループホームの運営を通して、65歳以降の暮らしをどう支えていくかという課題に向き合う中で、医療との連携を強くし、安心して暮らし続けられる環境をつくっていきたいと考えています。



ーのうび在宅クリニックの主な事業を詳しくお聞きしたいです

岡田:当院では、訪問診療を主体に行っています。患者さんのご自宅や高齢者介護施設、障がい福祉施設などに伺い、生活の場で診察を行うのが特徴です。
その方が暮らしている環境も見ながら診療を行なっていきます。
肥田:その形を取ろうと思った背景はあるんですか?
岡田:必要な支援にたどり着けていない高齢の方や障がいのある方に、こちらから外に出て支援を届けていきたいという思いがありました。
訪問診療では、ご本人だけでなくご家族との関係や日々の生活の様子まで見ることができ、「他にも必要な支援があるのではないか」と気づき、行政や他のサービスにつなげることもできます。
一人でも多くの方を必要な支援につなげていきたいと考えています。
土師:在宅医療では、ご本人やご家族の希望に沿って支援を行います。そのため、それぞれの思いをすり合わせていく中で、病院では選択されにくいような支援を選ぶこともあります。  単に病気を治すだけでなく、その方の生活に寄り添う必要があるというところが、在宅医療の難しさでもあり、やりがいだなと感じます。
肥田:在宅医療では、患者さんの生活に深く関わる一方で、どこまで踏み込むべきか判断が難しいと感じます。どのように関わり方のバランスを取っていますか?
岡田:患者さんに踏み込みすぎないことも大切で、そのために、ある程度の線引きを意識しています。
関われる範囲には限りがありますし、在宅医療はチームで支えていくものです。ケアマネジャーや訪問看護など、それぞれの役割がある中で、自分たちの立場をお伝えしながら関わるようにしています。
また、患者さんの思いに深く入り込みすぎると、本当にその方のためになっているのか、治療として何が必要なのかが見えにくくなることもあるため、一定の距離感を保ちながら関わることを心がけています。
必要に応じて、「ここはご家族で」「こちらは行政の支援につながると良いかもしれません」といった形でお伝えしながら、役割を整理していくことも大切にしています。医療や介護の現場では、適度な距離感を持つことも、質の高い支援につながると感じています。
肥田:のうび在宅クリニックでその線引きの基準は定めているんですか?
岡田:明確に定めているわけではありませんが、当院は日頃から顔を合わせ、お互いの考え方を理解し合えているメンバーで構成されているため、「この先生であれば任せられる」という信頼感があり、同じ思いを持った医師が集まっていることが、判断の土台になっていると感じています。


ー高齢化社会が問題になっていますが、在宅医療の現場で起きている状況を教えていただきたいです。

岡田:最近特に感じているのは、高齢の障がいのある方が増えていることです。障がい者グループホームに高齢の方が入居されているケースがあり、中には80代の方が生活されていることも見受けられます。
本来であれば、そういった方々はサービス付き高齢者向け住宅など、別の選択肢につながるケースも多いと思いますが、制度や費用の面などさまざまな理由から、十分に移行できていない現状があります。その結果、本来グループホームを必要としている若い方が入りにくくなっていると感じる場面も増えてきました。
障がいのある高齢の方と、若い方の行き場、その両方が不足していることで、社会全体のバランスが少しずつ崩れてきているのではないかと強く感じています。
土師:施設の不足は現場でも感じていますし、それに加えてご家族との関わり方が難しくなっているケースも増えていると感じます。
若い世代が減り高齢の方が増えているという社会全体のアンバランスさの中で、支える側の人手が十分でないこともあり、結果として一部の人に負担が集中してしまっている状況も少なくありません。そのため、誰がその方を支えていくのかが見えにくくなっていたり、どこで誰に支えてもらえばいいのかわからないという方が増えている印象があります。
若い頃は自分でできると思っていたことが、いざできなくなったときに、頼る先がわからず困っている方が多いというのも、現場で感じている課題の一つです。




ー高齢の障がいのある方を支援するときに難しさを感じることはありますか?

岡田:最近では、いわゆる「8050問題」だけでなく「9060問題」といわれるようなケースも増えており、親が亡くなったあとに、支援を受けないまま生活環境が崩れてしまう方も少なくありません。
 精神科で診断は受けていても、これまで障害福祉サービスや介護サービスを利用してこなかった方が孤立しているケースもあり、現場でも課題を感じています。そうした方に対して、すぐに支援を入れようとしても、制度上すぐに利用できるサービスが限られており、結果として訪問看護など医療的な支援から関わらざるを得ないこともあります。
 また、障害福祉サービスは利用開始まで認定や手続きで3ヶ月かかるため、その間の支援が自費になってしまうなど、経済的な負担も大きくなりやすい状況です。
 こうした現状を踏まえると、障がいや福祉サービスについて、より多くの方に知ってもらいたいと思います。
肥田:本当にその通りで、親がいなくなった瞬間に、何から手をつけたらいいのかわからないという状況が絶対にあります。だからこそ、もう少し前の段階から情報提供や支援につなげていくことで、ご本人だけでなくご家族にとっても、安心して過ごせる時間が増えていくのではないかと感じています。
土師:在宅医療に関わるようになって、ご自宅に伺った際に、「これまでどうやって生活してこられたんだろう」と感じる方に出会うことが少なくありません。そうした方が実際に多くいらっしゃることに、今も驚かされることがあります。
岡田と一緒に訪問する中で、その方にどのような制度やサービスが必要なのか、どのような手続きをすれば利用できるのかをお伝えしながら、支援につなげていくようにしています。



ー「最期まで地域で暮らす」とはどのような状態をさすのか、皆さんのご意見をお聞きしたいです。

岡田:「地域で暮らす」ということについて、国としては在宅での生活が望ましいとされていますが、実際に在宅で生活を続けていくためには、医療と福祉が連携したチームとしての支援が不可欠です。医師が中心となるのではなく、あくまでチームの一員として関わり、ケアマネジャーや相談員、訪問看護師など多職種がそれぞれの役割を担いながら支えていくことが重要だと感じています。  その人にとってより良い生活を支えながら、必要な医療を提供していくことで、「最期まで地域で暮らす」という状態を実現できるのではないかと考えています。
土師:最終的な治療の判断は医師に委ねられることが多いですが、その判断は、周囲の多職種の支えがあってこそ成り立っていると感じています。
訪問診療では、医師が毎日患者さんのもとに伺えるわけではないため、限られた情報の中で判断する場面も少なくありません。そうした中で、日々の様子や変化について、他職種の方々から共有いただく情報が大きな支えになっています。
それぞれが専門性を持つ立場だからこそ、お互いの視点を理解し合い、コミュニケーションを重ねていくことが、より良い支援につながると感じています。多職種がそれぞれの専門性を持ち寄りながら、患者さんを中心に支えていくことで、その人らしい生活を実現できるのではないかと思います。
肥田:私が幼少期に施設の職員に「自立すること」として教えられてきたのは、何でも自分でできるようになり、最終的には一人暮らしをすることでした。しかし、その考え方には以前から違和感がありました。一人で生活できるようになることが自立だとされる一方で、それは地域とのつながりが薄れ、孤立した状態につながってしまうのではないかと感じていたからです。
そうした経験から、C-POWERグループでは「頼れる先を増やし続けて自立する」という考え方を大切にしています。一人で抱え込むのではなく、周囲と関わりながら生活していくことが、自立なのではないかと考えています。
人は誰でも、できないことや支援が必要になる場面があります。だからこそ、日頃から人とのつながりを持ち、頼れる先を増やしていくことが、地域で暮らし続けるうえで大切だと感じています。


医療と福祉がつながり、地域全体で支えることの大切さが見えてくる対談となりました。


一般社団法人 緑 のうび在宅クリニック
〒507-0071
岐阜県多治見市旭ヶ丘1丁目86番地1
TEL080-9578-7938


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